AMED BINDS事業

AMED, Basis for supporting innovative drug discovery and life science research
 AMED「生命科学・創薬研究支援基盤事業」(BINDS事業)https://www.binds.jp)は、我が国の幅広い生命科学関連研究に立脚し、その中の優れた研究成果を創薬研究などの実用化研究開発に繋げることを目的とした事業です。長崎大学は、2017年度〜2021年度の第1期事業に引き続き、2022年度からの第2期BINDS事業(BINDS Phase II)にも採択されました。

 この事業において長崎大学は「ヒット化合物創薬ユニット」に所属し、「海洋微生物抽出物ライブラリーを活用した中分子創薬の支援と高度化」という課題において創薬支援活動を行っています。

支援の概要

支援の内容

 長崎大学では、長崎県の豊かで多様な海洋資源を創薬に活用することを目的に長崎大学海洋微生物抽出物ライブラリー(Nagasaki University Marine Microbial Extract (NU-MME) Library)の構築を進めてきました。我が国で最も島嶼地域に恵まれ、海洋県として知られる長崎県は、本土側にも複雑な海岸線を多く有し、その総延長は北海道についで全国第2位を誇っています。これは海洋生物の多様性が高いことを物語っており、そこから得られる天然化合物は、ケミカルスペースの広い有用な創薬ライブラリーの源泉となります。

都道府県別海岸延長(環境省 環境統計集 2016年3月31日現在)

 各地から収集してきた様々な海洋動物や海藻などのサンプルを細断し、海水寒天培地に塗布することで、サンプルに付着したり共生したりしている様々な微生物を比較的容易に単離することができます。長崎大学では、過去2度(平成8〜11年度、平成14〜15年度)にわたって県内各地で海洋微生物の大規模なサンプリングを行い、その際に単離された18,000種類を越える微生物株が現在も保存されています。まずはその保存株を順次、再培養して新規保存株を作製する一方、新たな微生物の収集活動も行って新規保存株の拡充を図っています。





 各微生物株からの抽出物の調製法に関しては、いくつかの方法で実際に抽出物を調製し、それらを複数の創薬スクリーニング系にかけ、バリデーションを行うことにより、もっとも有効性および汎用性が高いと思われる方法を採用しました。2022年3月末までに、約1,800株の新たな微生物ストックを作製し、約1,100種の抽出物を調製しました。現在、そのうちの640種の抽出物を96穴プレート8枚に分注したものを創薬支援プログラムの一環として希望する学内外のアカデミア研究室や、国研、民間企業の研究所などにご提供していますが、今後、さらにライブラリーの拡充を進めていく予定です。本ライブラリーを用いたスクリーニングでは、通常の化合物ライブラリーのスクリーニングとは異なり、ヒットが得られた段階では活性化合物の性状や構造が不明であるため、サンプルごとに微生物の再培養や大量培養およびその後の抽出物の調製が何度か必要になり、さらに最終段階として抽出物からの活性化合物の単離・同定が必要となります。そのワークフローは次の通りです。

  1. 1次ヒット抽出物が得られた場合、追加のサンプル(スクリーニング用サンプルと同一ロット)を使って再現性と濃度依存性を確認する。
  2. その確認が済んだサンプルについては、再度、スクリーニング用サンプルと同じ方法で培養、調製を行い、そのサンプル(再調製サンプル)でも活性が維持されていることを確認する。
  3. さらにそれでも活性が維持されていた場合は、中規模培養サンプル(培養液 1.6リットルより調製)での活性確認を経て、大量培養(培養液 20リットル程度)ならびに抽出物の大量調製を行い、その活性を確認する。
  4. 大量調製サンプルからの活性化合物の単離・同定に進む。

 本ライブラリーの特徴の一つは、昨今の創薬で求められている、いわゆる中分子を豊富に含んでいることで、今後の中分子創薬における基盤となることが期待されます。もう一つの特徴は、一つ一つのサンプルが多種多様な化合物を含んでいるため、スクリーニングに供するサンプル数自体は少なくても結果的に多くの化合物を効率良くスクリーニングすることになり、比較的スループット性の低いアッセイ系でもヒットを得られる可能性があることです。特にアカデミア創薬に多い、細胞をベースとしたアッセイ系などでも比較的手軽に創薬スクリーニングを行えるため、アカデミアにおける創薬研究の裾野を広げることにつながると考えられます。一方で、ヒットした抽出物から実際に活性を示す化合物を単離・同定する必要があり、その過程に多くの時間と労力が求められる点が難点です。しかし、その点については今後さらなる技術向上と効率化を目指すことで克服していきたいと考えています。

 私たちは、海洋微生物抽出物ライブラリーに加えて、構造を決定済みの天然および合成中分子化合物ライブラリーの提供も行っています。こちらのライブラリーは、長崎大学内の薬学部、医学部、工学部、環境科学部などの有機化学系研究室が保有している種々の天然および合成化合物のうち中分子に相当するものを収集したもので、微生物培養や化合物同定などで時間のかかる抽出物ライブラリーを用いたスクリーニングと上手く組み合わせていくことで効率的な中分子創薬の支援が可能となることが期待されます。現在、提供可能な化合物は160種ですが、こちらについても今後拡充を進めていく予定です。

お問い合わせ先:
先端創薬イノベーションセンター創薬探索部門
武田 弘資
E-mail: takeda-k[a]nagasaki-u.ac.jp
([a]を@に変換して下さい。)

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